『兄さん、姉さん以外の女の人と付き合ってるよね。この前、兄さんが、女の人と一緒にいるところを偶然見かけた』

『そっか…見られてたんだ…嘘はつけないな。ああ、お前の言う通りだ』

『いつから?会社の人?』

『悪いが、お前には関係ない』

『関係なくないよ!』

僕は、自分でも驚くくらい、ムキになって言った。

『愛美が好きだからか?』

えっ?

僕は、息を飲んだ。

『お前が愛美を好きなのは、ずっと見ていてわかったよ。最近は本気だったんだろ?』

『…そんなこと…』

それ以上、僕は何も言えなかった。

『お前は弱虫だ。愛美が好きなら告白すれば良かったんだ。愛美も考えたかも知れない。凌馬といる方があいつは…』

本気で言ってるのか?

兄さんは、姉さんのことをそんな風に見てたのか?


兄さん、何もわかってない。


『姉さんは兄さんの奥さんじゃないか、そんな人に告白なんて、出来なかった。出来るわけないだろ。姉さんは…兄さんのこと、本気で愛してたんだ、なのに、なんで浮気なんか…』

悔しい、子どもの頃から兄さんを慕ってきた思いが、僕の中で一気に崩れた。


そして、僕は…


気がついたら、兄さんを殴っていた。


兄さんは、黙っている。

痛そうにしてる兄さんを見て、なんだか、悲しくなった。

兄さんを尊敬してるのに、姉さんを好きになって、ユウのこともよくわからなくなって、なんやかんや言って、一番悪いのは僕じゃないか…


なのに、兄さんを殴って…


『わかった、兄さんの好きにしたらいい』

僕が、部屋を出ようとした時、兄さんが言ったんだ。

『愛美は、駅前のホテルに泊まってる』