「ため息つきたいのは俺のほうだけどな」


そんな私の反応を見たのだろう、健斗がボソッと話しかけてきた。


「どうして?」

私の方がため息をつきたい。
朝から健斗の発言のせいで、大ごとになったというのに。


それに、恋人のフリというものが、こんなにも心をえぐられるだなんて想像すらしていなかった。



「唯香が悪い奴だから」
「はい?」

私が悪い奴?


思わず健斗のほうを向くけれど、彼は相変わらずの無表情で。

少し不機嫌に見えなくもない。


「自覚なしとかもっとダメだな」
「な、何が……」

「ちゃんと、わからせてやるから安心しろよ」


何故だか嫌な予感がした。

「いや、大丈夫です」
「でも言わないとわからないだろ?」

「わからなくても大丈……」
「起立」


なんとか粘ろうとしたけれど、学級委員の子が挨拶をしたため、みんなが立ち上がる音に声がかき消されてしまい。


結局健斗と話ができないまま、授業が始まってしまった。