「え、映画観るから」
平常心、平常心。
ドキドキする気持ちを抑えながら、必死でスクリーンに目を移し、健斗の存在を忘れようと心がける。
「一回だけ」
「……周り見てる」
「みんな映画に夢中だから」
「どうして今なの?」
「唯香がかわいいから」
「……っ、バカ」
「バカでいい。ほら、早く」
健斗は私を自分のほうへと向かせた。
ふたりの距離は相変わらず近い。
諦めて、私は目を閉じた……なんて、嘘かもしれない。
きっと受け入れる体勢なのだと思う。
健斗は一度、笑ったかと思うと、そっと私に唇を重ね合わせてきた。



