「実はまだ出来ていなくて……」

はぁ?なんで?アレで完成って言ってたじゃん?

「なんで?そんなに絵の具が乾くの遅いの?」

「そうじゃなくて……人にあげるものって考えると、どうしても力入っちゃって、ちょこちょこ書き直してるんだ」

「そんな事しなくていいよ。はやくちょーだい?」

「うん……そうなんだけど……、俺、どうしても筆が行き過ぎちゃうんだよね」

「じゃあ、一生もらえないじゃん」

「それで、俺を見張ってくれる人がいればいいなーなんて……」

……話が読めた。

つまり、誠君は私に美術部に入って欲しいんだ。

私の目が確かならば、誠君の目は期待と不安で私を見ていた。

はぁ~とため息を一つ。

これが全生徒憧れの生徒会長のすることかね?

「いいよ」

「え?」

「私が美術部に入って誠君を見張ってあげる」

「ホント?」

「ホントだよ」

誠君がガッツポーズをする。

……ホント、私なんかが入っても美術部に言い事なんてないのにね。

でも、絵を見張らなきゃ行けないんだからユーレイ部員にはなれないな。

「じゃあ、入ってくれたお礼にこれやるよ」

渡されたのは一冊のクロッキーブック。

まだ新しい物らしく、開いてみると真っ白だった。

「誠君、これ……」

「あ、気にしないで。俺が買ったやつだから。
 
 前のやつそろそろなくなりかけていたから買いに行ったら、2冊買うと20%オフって書いてあってさー」

「お金払うよ」

「いいって、もらっとけよ。そのかわり大事にしろよ?」

私は自分のクロッキーブックをぎゅっと抱きしめた。

真っ白なその紙に、私は何を描けばいいんだろ?