「君は僕のことを邪険にしているのに、こんな男と仲良くしているのか!」

おじいさんが叫ぶ。

つーか、ジャケンって何?

ジャケンになんてしてませんよー。怖がっているだけです。

「あなたの行動は客としての行為からあきらかに、いきすぎています」

政さんが言うと、おじいさんは政さんにつかみかかった。

けれど、政さんの方が強くて、おじいさんのウデはあっという間に政さんに捕まってしまった。

「彼女、明らかに怖がっているじゃないですか」

「私はただ、鏡子ちゃんを孫のようにだね……」

「あなたはそんな目で孫をみるのですか?

 それはお孫さんがかわいそうだ」

政さんは静かに言っていたが、その言葉一つ一つに怒りがこめられていた。

「お客様、喧嘩は困ります」

原因は私だけど、そう言わないと、おじいさんのさっきの叫び声のせいで、スーパーのお客さんが何事かと集まってきた。

……こういうときって間借りしてる喫茶店って困るよね。

政さんがウデを放すと、おじいさんは注文したアメリカンを待たずに、逃げるように帰って行った。

「……騒ぎを起こしちゃってゴメンね」

「政さんのせいじゃないですよ」

やじ馬に集まっていた人たちがひとり、また1人と戻っていった。

「あ……」

見れば、床にルビーの指輪が落ちていた。

「落とし物……」

私はソレを拾うと、奇妙な事に気がついた。

普通に落としたのならむき出しのはずの指輪は、小さいジッパーの中に入れられていて、どうやら付けていたのを落とした……って感じではなかった。

「政さん、ちょっと待っていてください。サービスカウンターに預けてきますから」

そう言って、私は『ただいま席を外しております』という看板を表に出し、サービスカウンターへ、落とし物としてルビーの指輪を届けに行った。