クリスタルは、俺の腕をそっと握っている。あとでたくさん抱きしめようと俺は決めた。

俺にそんなことを言われたフィリップは、体を震わせながら「この、無礼者!!」と叫んだ。しかしお忍びで来たので、俺を咎める者は一人もいない。

「それに、クリスタルを本当に愛しているのなら、クリスタルが痛がっているのに無理に引っ張ったりはしないでしょう」

「なっ……!」

子供たちがフィリップを指差して、クスクスと笑う。フィリップはこんな屈辱は初めてだ、と言いたげな顔だ。

「ふっ…ふふふ。私は諦めません!必ずやクリスタル王女のハートを掴んでみせます!!」

フィリップはクリスタルにそう言うと、逃げるように孤児院を去って行った。

しばらくその背中を見送ったあと、俺はクリスタルに「クリスタル、大丈夫か?」と訊いた。

「大丈夫……。大丈夫なんだけどね……。その……」

俺の腕を掴むクリスタルは、赤くなりながら言った。

「抱きしめて、キス……してほしい。…消毒…」

とても小さな声だったが、きちんと俺の耳に届く。俺はクリスタルを抱きしめ、「言われなくてもするつもりだったんだぞ」と優しく言った。