「フローレンスくん、あのね?」

僕は高鳴る心臓を押さえながら、フローレンスくんの耳元に口を寄せる。

「ずっと好きだったよ、君のこと…」

過去形なのは、フローレンスくんには恋人がいるから。お姫様の隣に立つのは、決まって王子様。魔法使いの出る幕じゃない。

ずっと心のどこかでフローレンスくんを好きってわかってて、でも傷つくのが怖かったんだ。

失恋しても胸は痛まない。だって、気持ちは伝えられたんだから…。

「あなた、何言ってますの!?」

フローレンスくんは一瞬驚いた顔をした後、僕の胸ぐらを掴む。フローレンスくんは身長は百六十四センチ。僕と三十一センチも身長差があるのに、僕を掴む手は力がこもっている。

「えっ?ど、どうしたの?」

戸惑う僕に、フローレンスくんは「ムカつきますわ!」と怒鳴った。

「あなたを知っていくうちに、あなたに惹かれていきましたのよ!!今まで私にとって恋愛なんて、異性に宝石やドレスをプレゼントしてもらう人としか思っていませんでしたわ!!でも、あなたが…」

フローレンスくんは、ゆっくりと僕から手を離す。

「……私に、恋を教えてくれましたのよ」

ん?ちょっと待って!

僕は慌ててフローレンスくんに訊ねる。

「フローレンスくん、彼氏いるんじゃなかったっけ?」

「とっくの昔に別れましたわ!あなただけですもの!!」

僕の心が嬉しさでいっぱいになる。僕は、優しくフローレンスくんを抱きしめた。細く簡単に折れてしまいそうな細いウエスト、柔らかい肌、僕がほしかった温もりーーー。やっと抱きしめられた……。

「じゃあ、過去形じゃなくていいんだね?」