そう思った矢先のことだ。

仕事中、来客の流れが途絶えて手持ち無沙汰になり、しんと静まり返った受付室の中で、亜美ちゃんがぼそりと言った。

「私、津田さんと付き合うことになりました。」

目の前が真っ暗になることなんてあるんだと、何故だか冷静に分析してしまう自分がいる。
頭をフル回転させて出てきた言葉は、薄っぺらいどうしようもないものだった。

「そうなの。おめでとう。よかったね。」

感情はこもってなかったかもしれない。
なんで、どうして、という思いも押し殺した。
けれど胸が痛むのにはかわりなかった。

せっかく一歩踏み出そうと決心したのに。
そう心に誓ったのに。
踏み出す前に終わってしまった。

ああ、いつもそう。
私はぐずぐずしてしまって、大事なものを手に入れることができない。
自分の気持ちを出すことができない。
子どもの頃から大人になっても、それは変わらない。
変わりたいと思ったのに、今回もまたできなかった。

込み上げてくるものがあって、亜美ちゃんに不自然にならないように背を向けた。