言葉にはしないものの、そんな事を思いながらくすくす笑うと、湊が私の肩から頭を上げて、こつんと額を触れ合わされた。間近で目が合うその瞳は、心無しか不機嫌そうだ。

「膝枕、仕切り直しね」

「え?」

「瀧に邪魔されたから。仕切り直し。明日俺んち」

 やだ。湊、ご機嫌斜めになってる。せっかく瀧先生が来た時起こさないで置いたのに。やっぱり根に持ってるんじゃん。

「大丈夫。明日は親いるんじゃないかな、多分」

 ……そこ、確定じゃないんだ。そもそも大丈夫っていうポイント、湊的にはそこ……なのね?

「君に寄りなな言痛(こちた)かりとも、ね。 これどこをどう訳したらこっちの意味になんの? 」

 こっち、と現代語訳を湊の長い指が指す。言わんとすることは何となくわかる。

「……知らないよ。昔の偉い人が訳したんだよ、きっと。言われると何となくそんな感じなのかなって気がしてくるし」

 私たちの髪を揺らす風は春の風だけど、くすくす笑いながら肩を寄せ合う湊と私は、稲穂のように寄り添って見えるのかな?

 貴方の傍に居たい。たとえ、どんな噂をたてられても。

 貴方が私を望んでくれる限り……ずっと貴方の傍に。




君に寄りなな -end-