「んー、今のとこ、これ」

 私は目印に紙を挟んでおいたページを開く。

【秋の田の穂向きの寄れること寄りに
      君に寄りなな言痛(こちた)かりとも】

 私が読み上げても湊の反応が薄い。

「意味は?」

 目の前で本を開いているのに聞いてくるという事は、目を伏せているのだろう。

「……秋の稲穂が片側に傾くようにあなたに寄り添っていたい。たとえ周りにどんな噂をたてられても」

 肩の上でふっと湊が笑う気配がした。

「今年はちゃんと俺だ」

 湊が零した感想に、笑ってしまう。

「まだ根に持ってた」

「持ってないよ。あのタイミングでまだ武田だったのが癪に触っただけで。てか、とわ、あいつのどこが好きだったわけ?」

「どこって……」

 どこってどこだったろう……? 言われてちょっと考えようとしたら思考を不機嫌な声で遮られる。

「即答されても嫌だけど、考え込まれても腹立つな」

「えぇ……。自分で言い出したんじゃん……。そう言うのを根に持ってるって言うんだよ?」

 それにね、あの和歌も私にとってはちゃんと湊の事の和歌になったんだよ? 届かなくても、叶わなくてもずっとずっと好きだって、思ってたんだから。