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 書道室には2面に窓がある。窓を開けておけば、優しい風が吹き抜けて心地がいい季節だ。膝の上にある重みはさて置き、手にした万葉集をぱらぱらと捲っていた私は、ドアの開く音に思わず声を漏らした。

「……あ」

「あー……、ごめん。体育祭だったから油断した」

「いえ、こちらこそ、こんな所ですみません……」

 こんな所こと、放課後の書道室。私の膝の上には湊の頭が乗っかっているので、私は動けない。そんな私たちに苦笑いして、瀧先生は奥の資料棚へ向かう。

 結局、私はご褒美を何にするか考えられないまま放課後を迎えた。だって、何ならご褒美になるのか本当に判らなかったから。ちなみにキスは「それは別。後でって約束してたでしょ?」とご褒美枠には入れてもらえなかった。

 その後、紆余曲折の末に膝枕をしてあげる事になって、今に至る。湊はちょっと前からお昼寝中だ。

 別に湊がこれで満足しているなら良いんだけど、膝枕ってご褒美になるのか全くわからない。確かに普段しないけど……抱きしめてもらうのと難易度的にはそこまで変わらないよね? こんなでいいの? と思いつつも、流石にそれを言ったら薮蛇が過ぎるのは、私にだって判るので黙っていた。

 膝枕しているのは居心地が悪いけれど、起こした所で湊が気まずいだけだから、もう開き直って起こさないことにした。他の人ならまだしも、瀧先生相手では、いろいろと今更な気もするし。