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「そっち延長ってマジで?」

 試合を終えた武田が、後ろから声をかけてくる。若菜も一緒だ。武田のクラスは1-Dを破って3位が確定したらしい。

 一方の湊達はと言うと、少なくとも湊は寝て元気になったのは嘘じゃなかったらしく、押され気味でありながらも善戦して、まさかの延長戦にもつれ込んでいた。

 吉沢くんのことを散々脳筋だなんだとネタ扱いしているけれど、湊はもちろん時田くんや高橋くんも十分過ぎるほどに負けず嫌いだ。延長戦開始直後にI組に先制されているけれど、全然引く気がない。

「桜庭、さすがにバテてんな」

「そりゃバテんだろ。あいつ、ペース配分準決勝に合わせてんだもん」

「トリが吉沢って分かってたのに、馬鹿だよな」

 私の周りで、サッカー部の3年生達が笑う。

「しゃぁねぇなぁ。桜庭元気にしてやっか」

 苦笑いした武田は、コートにいる湊の背中へと声を張り上げた。

「桜庭ぁー! 頑張ったら瀬川がご褒美くれるってよ」

 …………はい?! 私そんなこと一言も言ってないんですけど?! 何勝手なこと言ってるの?!

 狼狽える私を振り返った湊は、かすかに笑って、走り出した。