「せーがーわー。桜庭にドーピングするなよ。瀬川に頑張れって言われたら、超頑張っちゃうに決まってんじゃん」

 試合終了後、戻ってきた武田の開口一番が、これだった。

 勝っても負けても武田と時間をずらそうと思っていた。それなら、負けるのが嫌だという湊を応援したかっただけなんだけど……。あんなに喜ぶなんて思ってなかった。

「約束通り時間ずらせよ、武田」

「んー、まぁ俺はそれでも一向に構わないけど、瀬川に一応確認しないと」

 武田は、満足気な表情の湊の言葉に頷きながら私に視線を向けてくる。

「瀬川さ、相馬と2人で平気?」

「え? 相馬くん? なんで?」

 話の脈絡が掴めなくて聞き返す私以上に湊が怪訝な顔をしている。武田は湊に視線を向けると、口を開いた。

「最近っつーか、先月の中頃辺りから毎日駅で一緒になる同中の奴が居るんだけどさ。そいつ中学の頃、瀬川のこと好きだったんだよね」

 唐突に武田が言い出した話に「は?」と湊がその端正な眉を寄せる。私だってそんな話初耳だ。