体育館のトイレのあまりの混雑っぷりに、ちぃちゃんと2人で昇降口近くのトイレまで出てきていた。体育館近くの自販機はお茶や水が軒並み売り切れてしまっていたけれど、こっちの自販機ならまだ有るかも、と微かな期待も込めて。

 キィっとドアの蝶番が微かに軋む音がして、個室から出たと思しき女の子達が話し始めるのが聞こえてきた。

「そろそろ体育館行っとく? クラス変わってから桜庭くんと全然接点ないんだもん。せめて体育だけでも一緒だったら良かったのに」

「だよね。しかも、今日の桜庭くん超かっこいいし。あれでアイツいなきゃ最高なのに」

「アイツって?」

「瀬川 とわに決まってんじゃん。なんなの? アイツ。より戻ったんだか知らないけどさ、桜庭くん見るといっつも隣にいてマジムカつくんだけど」

 ドクンと心臓が鳴る。冷たい手で心臓を触られている様に、身体の内側から冷えていく。トイレの個室から出ることも出来ずに、物音一つ立てないように息を殺した。