「あれ、随分仲良くなったんだね。
でもまあ泣き止んでよかった。珈琲は平気?駄目なら紅茶もあるけど」

「大丈夫です。ありがとうございます」



部屋のあまりの大きさと綺麗さに、完全に涙が止まり唖然としてしまう。
なんだかモデルルームのような、テレビの中で見るような部屋で自然と目線が色んな所を覗いてしまう。


「バッ、これはっ、ちがえからっ。
ただ、ここに案内しただけだしっ」


何故か、思いっきり手を離されてそんな言葉を放つ凌平。
自分で引っ張ったくせに。


「可愛いでしょ?」

「そうですね、なんだか肩の力が抜けました」


凌平の事を可愛いでしょ?というお兄さんに、笑いながらそんな言葉を返す。
本当に肩の力が抜けた気がした。

ずっと、お母さんが亡くなってから気を張って生きていた。
こんなふうに笑ったり、気が抜けたり、久々の感覚だった。


「何がだよっ、兄さんまで」

「まあ、いいじゃん。凌平もこっちおいで。
ミルクもハチミツたくさん入れてあるよ。えーっと、なんて呼んだらいいかな?佐藤さん?でも妹だしね、一応。真奈ちゃんとかでいいかな?
真奈ちゃんもミルクとハチミツここに置いとくから好きに入れてね」

「大丈夫です。呼び捨てでも平気ですよ。私はなんてお呼びしたらいいですか?」

「真奈ちゃんって呼ぶよ。俺も下の名前で呼んでくれて構わないよ。口調もくだけてくれて構わないよ」

「では真一さんと」


そういいながら、高そうなソファーに座る。
目の前の大理石で出来た机の上には珈琲が三つと、ミルクとハチミツはお店でしか見たことないような入れ物に入っていて、これが家にあるのかとなんだかそんな小さな事にも目を奪われる。