「あら、クリスティーネ様、あちらにいらっしゃるのは殿下ではございませんか?」

揺れる馬車の中で一緒に乗っていた令嬢が外を見て驚いたように目を見開いていた。
言われてクリスティーネも外を見て見ると今話題のケーキ店にアレクシスとティアナがいた。

「殿下、甘いものは見るのも匂いも嫌だと聞きましたが……違ったのでしょうか?」

「いいえ、事実ですわよ」

確かに、アレクシスは甘い匂いも嫌いなはずだった。
それがあの女とあんな場所にいるなんて、とクリスティーネは扇を持つ手に力を込めた。

「それにしても、先日の舞踏会では驚きましたわ。
私、婚約者はクリスティーネ様に決まっているものだとばかり……」

「そうですわね……」

今でも納得はいかない。
王妃になるためだけに今まで育てられてきたのに、ぽっと出の女にその座を奪われるなんて……。

「もしや殿下方はあの方に騙されているのでは……」

「……騙されている?」

「え、ええ。
王族と釣り合うくらい身分が高いとか、それか、両国に関する何か重大な秘密を握っていると脅していたりとか……?」

「なるほど、一理ありますわね」

それほどの理由がなければ自分が選ばれないはずはない。
殿下は騙されているか脅されている、それならやはりあの女が消えれば丸く収まるはずじゃないか。とクリスティーネは扇で隠した口元を上げた。