「近頃、賭け事が行われているようです」

「賭け?」

「アレクシス殿下とユアン殿下、どちらがティアナ様を見事射止めるか、という内容だそうですぞ」

くだらん。とアレクシスは興味を失ったかのように手元の書類に視線を落とすが、話を持ってきた宰相はほくほく顔で嬉しそうに、私はもちろんアレクシス殿下に賭けましたぞ。と言ってくる。

「……宰相も賭けに乗っているのか」

「私だけではございません。
王妃や王、ナタリーも賭けておりますぞ」

「王宮も平和だな……」

他人事だと思って……。とアレクシスは息つく。
ユアンに婚約発表の招待状を送った時から、ただでは引っ込んでいないだろうと思ってはいたが、まさか公衆の面前であのような行動をとるとは思わなかった。
おかげで国内外では大いに盛り上がり、視察で街に出ようものなら普段の無愛想な表情から誰も寄り付かなかったのに、今では不特定多数の人々から激励されていた。

「平和で結構ではないですか。
ちなみに王妃はアレクシス殿下、王はユアン殿下、ナタリーは大穴で誰も選ばない方に賭けたそうですぞ?」

「……何故全員が味方でないのかが不思議だ」

全員一緒では賭けにならないと言っていた気がします。とにこにこしている宰相からアレクシスはソファーにいる人物に視線を移した。