「ユアン殿下が本格的にアプローチを始めたそうです」

ナタリーの言葉にバサバサと大量の書類が手から滑り落ちる音が静かな室内に響いた。

「で、殿下っ!!何をしているのです!奪われてしまいますぞっ!?」

「宰相、書類を拾ってください」

慌ててアレクシスに近寄ろうとする宰相にナタリーが冷静に待ったをかける。
宰相の周りには今さっき落としたばかりの書類がバラバラに散らばっていたからだった。

「情報によるとユアン殿下のリードで何時間も踊られたり、馬に乗って帰ってきたらティアナ様の様子がおかしかったようです」

「様子がおかしい?」

「私が見ているときは、普段よりぼんやりしていて、溜め息をつく回数が多く、ユアン殿下の名前を出したら顔を赤くされていました」

恋煩いでなければいいのですが……。とナタリーが言うので、ついに宰相は書類そっちのけでアレクシスに駆け寄った。

「どうしてくれるのですか、殿下っ!
私がどんな苦労をして見つけてきたと思っているのです!?」

「さ、宰相、落ち着け」

「落ち着いていられませんぞ!
このままではフライハイト国にティアナ殿を奪われてしまいます!!」

いや、元からティアナはフライハイト国の者なのだが……と思ったが、宰相のあまりの剣幕にアレクシスは言葉を飲み込んだ。

「殿下、殿下もティアナ様を口説いてくださいませ」

「口説く……?」

「そして、早く婚約発表をするのです。
ユアン殿下に奪われる前に」

ナタリーの言葉と宰相の剣幕にアレクシスは思わず頷く。
だが、今まで女性とか関わってこなかったアレクシスはどう口説けばいいのか頭を悩ませるのだった。