「さあ、早くお決めください。
話すか、ここで命を落とすか……」

ティアナはなんとか首を捻り視線だけを執事に向けた。
読唇術を使えない相手にでも読み取れるように、ゆっくり、大きく、簡潔に口を動かした。

ぜ っ た い は な さ な い

「……それが貴女の答えですか……。
残念です」

一向に残念そうに聞こえない声で執事は地面に突き刺したナイフを手に取り、大きく振り上げた。
そのタイミングでティアナは胸一杯に息を吸い込む。

執事がナイフを振り下ろそうとした瞬間ーー

【みんな、力を貸してっ!!】

それは人には聞こえない、動物達だけが聞き取れるティアナの声。
その声を耳にしたありとあらゆる動物達が一斉に盗賊と執事に襲いかかってきた。

「うわあっ!?
なんだっ!?」

「なんだこいつらっ!離れろっ!!」

クマが、狼が、猛禽類が一斉に襲いかかり、隙をついて立ち上がると動揺している彼らの間を走り抜ける。
運よく襲われなかった数人の盗賊達がティアナを追いかけ、やがて行き止まりの崖の上に追い詰めた。

「さあ、こっちに来てもらおうか」

ニヤリと笑いながらジリジリと近寄ってくる盗賊。
より激しさを増してくる雨。

「っ……!!」

じりっと後退すると雨でぬかるんだ地面が重みで崩れ、ティアナは重力に従い崖の下に落ちていった。

「ティアナ様っ!!」

やっとたどり着いた護衛が盗賊を突飛ばし崖の下を覗き見るが、そこには雨のせいで濁流となった川しか見えなかった。