賑やかな京の町を、ゆったりと歩く少女がひとり。柔らかな春の日差しを受け輝く茶髪。スラリとした長い手足に、女性の割に少し高い背。柔らかな瞳の中に、少しの冷たい光。人とすれ違えば必ず振り向かれ、町の女子や、男らも噂するほどだ。
『これからどうしようかしら?甘味屋にでも行こうかしら?』
この少女は甘味が大好きなのである。
少女...否神凪神楽は、迷っていた。甘味を食べるか否か。
すると、浅葱色の羽織を身にまとった武士達が通る。
町の人々が口々に「新選組だ。」と口にする。
『新選組?すごく美形な方達なのね…。』
街の人に聞こうか、そのままほっぽって甘味を食べるか…とどうでもいい悩みに頭を使っていた時
「貴様!!!女だからとて許せん!」
男の声が聞こえてきた。どうでもいい悩みを頭の中から削除し、声の聞こえた方へ走る。
「お助け下さい…申し訳ございません!!」
『どうなさったのですか?ご立派な武士殿?』
「この女が、俺の着物の裾を汚したのだ!」
神楽は、目を丸め…次の瞬間
『プッ…くくくっくすくすくすくす。』
「貴様!何がおかしい!」
『何がおかしいって言われましても(クスクス)全ておかしいです。ご立派な武士様が着物の裾を汚されたぐらいで、無駄な血を流すなんて。クスクスやめてください』
「きっきっきさまー!」
神楽は振り下ろされた刀をひらりと交わすと男に飛び蹴りをくらわせた。
『こんな心の狭い男が武士を語るものではありません。』
「新選組が来たわ!」
「はいはーい、ちょっと通してね。そこの人(隊員)倒れてる男担いで屯所まで運んで」
「はい!」
「ねぇ君さぁ」
『私のことでしょうか?』
「そうだよ。君以外に誰がいるのさ」
『誰ってそこら辺で見ている…ってアレ?』
周りを見ても誰もいない。
「みんな新選組がきたから逃げたんだよ。」
『何故逃げるのですか?』
「そんなの僕達が怖いからに決まってんじゃんか」
神楽はわからなかった…ので聞いてみた!
『なぜ怖いのでしょう。まちにいる不逞浪士をあなたがた新選組が退治してくださっているのでしょう?』
真剣にその疑問を問いたのにその隊の一番偉い人がつぎの瞬間大きな声を上げて笑った。
『あら。こっちは真剣に聞いているのですけどねぇ』
「プッ…ごめんごめん。君面白いね。まぁ屯所までついてきてよ。…君がどこから来たのかとか色々調べないといけないしさ」
そういった彼は、どこか冷たい光を瞳に宿していた。

屯所
「ついたよ。ここが新選組の屯所。居間の方に行こうか」
『わかりました。』
テクテクと歩いていると竹刀と竹刀のぶつかり合う音や、男達の掛け声などが聞こえている。
「ここだよ。もうみんな集まってると思う。さっき隊士に頼んだからさ。」
『わかりました。では失礼します』
襖を開ける。
「おせーぞ総司、てめぇ今までどこほっつき歩いてやがった!」
「そんなに怒らないでくださいよ、土方さん。」
「お前がそんなことしてるから…ってなんだこの女」
「はじめまして。神凪神楽と申します。」

「この子さ、不逞浪士を素手で倒したんだ。だから気に入って連れてきた」
「やだっ素手だなんて…脚ですよ、脚。」
ちょっとの言葉でも、どのくらい印象がつくかわからない。
「脚でも十分じゃねぇか…?」

「まぁ!素手と脚では威力が違うんですよ!十番組組長、藤堂平助さん?」
名を口にした瞬間みんなの顔色が変わった。

喉元に、冷たいものが触っている
「てめぇ、なんでその名を知ってんだよ」
「知ってるも何も有名ですよ(クスクス)
真っ先に敵陣へ切り込む姿から、魁先生とも呼ばれているんですよね?」