悠斗が盃を請けて数日後。

親父があたしを部屋に呼びつけた。

総長の部屋に入れる者は限られている。

組の幹部でも数人しかいない。

娘のあたしも総長の部屋には、数えるほどしか入ったことがない。

床の間には掛け軸が飾られている。

金箔銀箔も使い色鮮やかな色彩で描かれた「花鳥風月」は、数百万はするだろう。

床の間に置かれた花瓶も、柿右衛門の手による1点ものだと聞いている。

「お嬢。総長の部屋に入る時は、普段着など御法度です。礼服か正装でお入りください」

いつだったか副総長に言われ、あたしは言われた通りにしている。

この日もあたしは黒のスーツで部屋に入り、親父の前に正座した。

「凛子。返事、聞かせてくれるか」

「あたしは親父の策に異論はない」

「後悔しねえな」

「あたしより……悠斗が良いと言うなら」