少女の髪を放したその手は、テーブルの上にあったお皿へと伸ばされる。

静かになった台所で無残な音が響く。

ビチャビチャビチャ

「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまったわ。」
ゆったりと、相手の神経を逆撫でするように焦ったような手振りをしながら、次のお皿へと手を伸ばす。

ボトッ ポトポトポト

「あらら、折角用意してくれたのに。手が言うことをきかなくて。」
丁寧によそい、盛り付けた朝食が載る皿を傾けながら同じ様に首も傾げる

そんな美しい女性は、謝ってはいるが、その顔が笑っているのを隠そうとしない。

「あ、もしかして歳なのかしらねえ?さっきもあなたに言ったはずなのに、聞こえてなかったのは、私の滑舌が衰えてきたせいかしら?」

わざと舌っ足らずな喋り方に変え、皮肉をも混ぜてくる。

「…いえ、そんなことはありませんよ」
こう言わなければ後がめんどくさいのはもう分かりきっている。

少女は床に落とされグチャグチャになった味噌汁や鮭を見つめながら再度口を開く。

──────────今、彼女に感情は無い

「お母様は大変美しくお若いですよ」

実の母からの仕打ちだと言うのに何の動揺も見せない