私は醜いアヒルの子

「危ない」
フワリと優しい石鹸の香りに包まれる。いつの間にか前から覆いかぶさる形で、私が後ろのレバーにかけた手が掴まれていた。
私の目の前にその人の胸があり、ドキッとする。
体勢と、香りのせいで抱きしめられた感覚に陥る。

上を見上げると、男の人と視線が合う。
ドッキンと胸が痛くなった。
妹や母で美貌には慣れた気になっていたけど、この人は格が違うな……

そこで私は我に返った。
いつの間にか頭の中の警報は止まっていた

え、もしかして私今走行中の車から出ようと思ってた?
サーっと顔から血の気が引く。
「あ、ごめんなさい。」
咄嗟に謝り、後ろに回した手を元の位置に戻そうと、動かす。
…動かない

まだ男の人に手を掴まれていた。
私がまた出ると思ってるのかな?

「あの、私、もうこんな危険な事しないので…。さっきはまだ寝ぼけてたみたいです…」

視線を合わせたまま説明しているのに、何の反応もない。