…いやいや、手を出すのは反則でしょ。
心の中で文句を言っていたその時
バキッ
ん?…バキッ?
顔を上げる。
今度は大柄な女子生徒がこちらに近づいて来ていた。
さっきの音は、転んだ弾みで鞄から散らばり出てしまった折り畳み傘を踏んづけたもののようだった。
私、傘無いと帰れないのに。
その瞬間、ビチャビチャビチャーー
頭からペットボトルの水がかけられる。
濡れた前髪が顔に張り付き、視界が遮られる。
「うふふ、ユリ様、私が仕返しをしてあげましたわ!」
「いい気味よ!」
どうせ、そんな取り巻きの子達にユリは感動する演技をするんだろう。
「まあ、皆さん…!」
ほら。
ポタポタと私から落ちる水によって床が濡れて行く。
「おい、あれ」
「うわ、アイツ、ユリさんを虐めてるっていう姉じゃん」
「まじで?あのユリさんを?」
いつの間にか、周りに野次馬がゾロゾロと集ってくる。
人気者のユリが私に虐められている、という噂が広まるのは一瞬のことなんだろう。
その証拠に、皆が私に非難の目を向けている。


