ギョッとしたちえりが石像のように硬直していると、長身のイケメンが踵を返してズカズカと歩いてきた。やがてちえりを押し退けたかと思うと――
「俺の部屋でもいいですよ…………」
"絶対に嫌だ"と言わんばかりのしかめっ面をした鳥居にちえりは幾度となく目をこすって彼を凝視する。
『ちょっと……あんた大丈夫なの? 目、完全に座ってるけど……』
『……気が変わったんだよ』
ちえりと鳥居がコソコソと声をひそめて話し込んでいると、それを見た瑞貴がちえりの手を引いて歩き出した。
「俺たちはパスだ。じゃあな」
「えーっ! なになになに!? ふたりってそういう関係なのーっ!?」
自分のもののようにちえりを連れ去ろうとする瑞貴の行動に目を輝かせた長谷川が殊更(ことさら)大きな声ではしゃぐと、無表情のまま足を速めた瑞貴に今度は別の声がふたりの行先を阻む。
「冷たいじゃないですか瑞貴先輩。鍋パーティーは皆でやったほうが楽しいですよ。帰る方向だって同じなんですから」
「……っ!」
(余計なことをっ……って、しまったっ! お隣さんなんだからこれじゃあ部屋に入るまで皆一緒だべっ!!)
「おっ? もしかして近所だったりする!?」
(やばぁいいっ!! これじゃあ同棲という名のパワーワードが広がってしまうっっ!!)
噂というものは尾ひれをつけて悪い方へ向かってしまうものがほとんだ。よもやこの関係が不本意な瑞貴の出世を邪魔することになったらちえりはこの先どう生きていけばいいだろう?
さらに長谷川の反応を見る限り、瑞貴は仲の良い同期にさえあまり自分のことを話していないらしいことがわかる。興味津々な長谷川と鳥居をけん制するように慌てたちえりが今度は大声をあげた。
(瑞貴センパイのことは私が守らないと――!!)
「……あ、あーーっ!! 私たちも参加させてもらおうかなぁっ! そういえばあんた料理得意って話してなかったっけっっ!?」
「チェリーさんよりは出来ますよ」
「一言余計だってー!」
「…………」
いつの間にか親し気にじゃれ合うちえりと鳥居の姿を目にした瑞貴はそっとちえりの手を離した。
ショックを受けたような……悲しそうな瑞貴の声と眼差し。
三浦の誘いを断ろうとしていた瑞貴の背中を押したあの夜と同じだった。
(……ごめんなさいセンパイ。でもこうするしか……このまま帰宅したらきっと一緒に住んでることバレちゃう……)
あまりの胸の苦しさから瑞貴の顔が見れない。きっと同じだけの痛みを瑞貴も抱えているだろうことを知っているだけに、こんなことしか思いつかない自分に悲しくなる。
「…………」
合わせる顔なく俯いたちえりの向こうに佇む鳥居の姿をこれまでにないほどに瑞貴が睨んでいたことにちえりは気づかなかった――。
「俺の部屋でもいいですよ…………」
"絶対に嫌だ"と言わんばかりのしかめっ面をした鳥居にちえりは幾度となく目をこすって彼を凝視する。
『ちょっと……あんた大丈夫なの? 目、完全に座ってるけど……』
『……気が変わったんだよ』
ちえりと鳥居がコソコソと声をひそめて話し込んでいると、それを見た瑞貴がちえりの手を引いて歩き出した。
「俺たちはパスだ。じゃあな」
「えーっ! なになになに!? ふたりってそういう関係なのーっ!?」
自分のもののようにちえりを連れ去ろうとする瑞貴の行動に目を輝かせた長谷川が殊更(ことさら)大きな声ではしゃぐと、無表情のまま足を速めた瑞貴に今度は別の声がふたりの行先を阻む。
「冷たいじゃないですか瑞貴先輩。鍋パーティーは皆でやったほうが楽しいですよ。帰る方向だって同じなんですから」
「……っ!」
(余計なことをっ……って、しまったっ! お隣さんなんだからこれじゃあ部屋に入るまで皆一緒だべっ!!)
「おっ? もしかして近所だったりする!?」
(やばぁいいっ!! これじゃあ同棲という名のパワーワードが広がってしまうっっ!!)
噂というものは尾ひれをつけて悪い方へ向かってしまうものがほとんだ。よもやこの関係が不本意な瑞貴の出世を邪魔することになったらちえりはこの先どう生きていけばいいだろう?
さらに長谷川の反応を見る限り、瑞貴は仲の良い同期にさえあまり自分のことを話していないらしいことがわかる。興味津々な長谷川と鳥居をけん制するように慌てたちえりが今度は大声をあげた。
(瑞貴センパイのことは私が守らないと――!!)
「……あ、あーーっ!! 私たちも参加させてもらおうかなぁっ! そういえばあんた料理得意って話してなかったっけっっ!?」
「チェリーさんよりは出来ますよ」
「一言余計だってー!」
「…………」
いつの間にか親し気にじゃれ合うちえりと鳥居の姿を目にした瑞貴はそっとちえりの手を離した。
ショックを受けたような……悲しそうな瑞貴の声と眼差し。
三浦の誘いを断ろうとしていた瑞貴の背中を押したあの夜と同じだった。
(……ごめんなさいセンパイ。でもこうするしか……このまま帰宅したらきっと一緒に住んでることバレちゃう……)
あまりの胸の苦しさから瑞貴の顔が見れない。きっと同じだけの痛みを瑞貴も抱えているだろうことを知っているだけに、こんなことしか思いつかない自分に悲しくなる。
「…………」
合わせる顔なく俯いたちえりの向こうに佇む鳥居の姿をこれまでにないほどに瑞貴が睨んでいたことにちえりは気づかなかった――。



