ちえりの手を引きながら買い物かごを持ってくれる瑞貴。その姿はもはや華凜な鳥籠を持つ王子様にしか見えず、彼が纏うただならぬオーラはすれ違う庶民の視線を釘付けにしてしまう。
『ちょっとあのひとヤバいかっこよくないっ!? ハーフ!?』
『隣の彼女……なわけないよねぇ……? クスッ』
「…………」
(う、、、……やっぱこうなる、よね……)
その存在自体が尊く、神の祝福を受けた美貌と人格を持つ瑞貴と……
化粧っ気もなく、もはや磨くことすら忘れてしまった掘り起こしたての泥だらけな芋のちえり。
(聖人と芋って……結構辛い……っ!)
「俺、結構カレー鍋好きなんだけどチェリーは?」
「……いや、王子と芋……かな……? ブツブツ……」
「うん? 王子と芋って……カレーの話? 鍋やめるか?」
「え?」
瑞貴の問いかけに顔を上げたちえり。
その視界に開けたのは……
さすが大手スーパー。シーズンに見合っていない商品も棚いっぱいに陳列され、美味しく食してくれる人のもとへいつでも行けるよう、綺麗な身なり(パッケージ)のブランド違いのカレー鍋のスープたちが規則正しく笑顔を振りまいていた。
さらに美しい王子が前に並んでいるせいで豪華絢爛な宝石たちが軒並みを連ねているようにしか見えないのが福眼極まりない。
「ううんっ! わ、私も高級なカレー鍋がいいですっっ!」
慌てて否定するちえりに苦笑する瑞貴。
「ははっ高級なカレー鍋ってなんだよ? 伊勢海老でも入れるか?」
「……はっ!! ……ごめんなさい、ちょっと考えごとしてて……」
「どんな?」
「そ、それはっ……」
笑いを堪えるように目を細めて顔を覗きこんでくる瑞貴に圧倒され怯(ひる)みながらも、懸命に笑顔を貼り付けて答えた。
「……センパイがあまりにも素敵だから私が並んで歩くの失礼かなって……」
「なに言ってんだ。ちえりは可愛いよ。俺の腕の中に閉じ込めたいくらいだ」
ちょっと照れ臭そうに笑いながら、ちえりの手ごと握りしめた手を胸元へ引き寄せて。
「大好きだよ、チェリー」
まわりの客の視線を自身の背で遮るように立った瑞貴はちえりの指先へ触れるだけの口づけを落とす。
「……っ!?」
火がついたように体が熱くなる。
これほどまでに美しい瑞貴が自分の指先へキスをするなど、申し訳なさと恐れ多さと恐れ多さと……それでもやっぱり嬉しさが大部分を占めたちえりの頬はだらりとだらしなく緩んでしまう。
「……わ、わたしも、センパイのことが……」
ドキドキと高鳴る心臓を始めとする五臓六腑、大脳から小脳に至るまでが"言ってしまえちえりーっ!!"という応援歌に湧き上がる。
真っ赤に熟れたさくらんぼというよりも、茹蛸(ゆでだこ)と化したちえりが鮮魚売り場に連れて行かれるのも時間の問題かもしれない。
――と、その時……
「今日の晩飯はたこ焼きにでもするか」
「……!!」
(こ、この声っ……!!)
聞きなれた声がちえりの頭上を掠めて。案の定、蛸と間違えたイケメンがひとり。
バランスを崩すほど強引に掴まれた腕によろけながら、ちえりはその声の主をキッと睨みつける。
「ちょっ……! 誰が蛸(たこ)よっっ!!」
「この時間に売れ残ってるならもう"おつとめ品"だな。黙って俺のカゴに入れ」
「……なっ!!」
不敵な笑みを浮かべる鳥居へ言い返そうとするちえりの肩へ腕を回した瑞貴が鳥居隼人の腕を強く掴んだ。
「鳥居、ここはオフィスじゃない。ちえりに構うのやめてくれないか」
「そ、そうよそうよっ!」
「じゃあ言わせていただきますが、先輩のものでもないのに私物扱いやめていただけます?」
「え、えーっとそれは……」
勝手に相槌を打ったかと思えば、モジモジと瑞貴の様子を覗き見るちえりに新たな声が飛び込んできた。
「あれー? ちえりっち? それに桜田っちまで! 偶然だねー!」
「長谷川さん……、三浦さん…………」
頭の上に漬物石が圧し掛かったくらいの衝撃がちえりに襲い掛かった。
よりによって一番会いたくないナンバーワン(鳥居隼人)、ツー(三浦理穂)が出そろってしまうだなんて、やはりこのまま蛸として鮮魚コーナーか、芋として青果コーナーに陳列されてしまったほうが幸せだったかもしれない。あからさまに落胆な表情を浮かべるちえりに三浦理穂が要らぬ口を開く。
「ねえ、せっかく皆集まったんだし、これから鍋パーティーでもどうかしら?」
「…………」
「え……」
無言で険しい顔をした瑞貴の気が乗らないのは明らかだったが、それよりもちえりは三浦理穂の"鍋パーティー"発言に瑞貴の買い物かごを隠したくて冷や汗が止まらない。
(鍋パーティーってどこでっ!? しかも鍋っ! なぜ鍋っ!! かごの中を見られたら鍋の気分じゃないっていう言い訳ができないっ!!)
「鳥居っちの部屋なんてどう? 引っ越してきたばっかだし綺麗なんじゃー……」
「大迷惑です」
間髪入れずに長谷川の言葉を遮った鳥居がスタスタと歩き出す。
「……」
(確かに……。あいつんちにはチェリーもいるし、あまり大人数でお邪魔するのは迷惑だよね……って、なんで私までお邪魔するつもりでいるんだろ……)
ズキッと痛んだ胸に俯(うつむ)くちえりの傍でさらに長谷川がヘビー級の第二段を繰り出した。
「じゃあ桜田っちの部屋はー!?」
「断る。俺は誰も部屋にあげるつもりはない」
即答した瑞貴にほっと胸を撫でおろすも、長谷川の視線はちえりに流れて。
「じゃあちえりっちの――」
「えっ!?」
『ちょっとあのひとヤバいかっこよくないっ!? ハーフ!?』
『隣の彼女……なわけないよねぇ……? クスッ』
「…………」
(う、、、……やっぱこうなる、よね……)
その存在自体が尊く、神の祝福を受けた美貌と人格を持つ瑞貴と……
化粧っ気もなく、もはや磨くことすら忘れてしまった掘り起こしたての泥だらけな芋のちえり。
(聖人と芋って……結構辛い……っ!)
「俺、結構カレー鍋好きなんだけどチェリーは?」
「……いや、王子と芋……かな……? ブツブツ……」
「うん? 王子と芋って……カレーの話? 鍋やめるか?」
「え?」
瑞貴の問いかけに顔を上げたちえり。
その視界に開けたのは……
さすが大手スーパー。シーズンに見合っていない商品も棚いっぱいに陳列され、美味しく食してくれる人のもとへいつでも行けるよう、綺麗な身なり(パッケージ)のブランド違いのカレー鍋のスープたちが規則正しく笑顔を振りまいていた。
さらに美しい王子が前に並んでいるせいで豪華絢爛な宝石たちが軒並みを連ねているようにしか見えないのが福眼極まりない。
「ううんっ! わ、私も高級なカレー鍋がいいですっっ!」
慌てて否定するちえりに苦笑する瑞貴。
「ははっ高級なカレー鍋ってなんだよ? 伊勢海老でも入れるか?」
「……はっ!! ……ごめんなさい、ちょっと考えごとしてて……」
「どんな?」
「そ、それはっ……」
笑いを堪えるように目を細めて顔を覗きこんでくる瑞貴に圧倒され怯(ひる)みながらも、懸命に笑顔を貼り付けて答えた。
「……センパイがあまりにも素敵だから私が並んで歩くの失礼かなって……」
「なに言ってんだ。ちえりは可愛いよ。俺の腕の中に閉じ込めたいくらいだ」
ちょっと照れ臭そうに笑いながら、ちえりの手ごと握りしめた手を胸元へ引き寄せて。
「大好きだよ、チェリー」
まわりの客の視線を自身の背で遮るように立った瑞貴はちえりの指先へ触れるだけの口づけを落とす。
「……っ!?」
火がついたように体が熱くなる。
これほどまでに美しい瑞貴が自分の指先へキスをするなど、申し訳なさと恐れ多さと恐れ多さと……それでもやっぱり嬉しさが大部分を占めたちえりの頬はだらりとだらしなく緩んでしまう。
「……わ、わたしも、センパイのことが……」
ドキドキと高鳴る心臓を始めとする五臓六腑、大脳から小脳に至るまでが"言ってしまえちえりーっ!!"という応援歌に湧き上がる。
真っ赤に熟れたさくらんぼというよりも、茹蛸(ゆでだこ)と化したちえりが鮮魚売り場に連れて行かれるのも時間の問題かもしれない。
――と、その時……
「今日の晩飯はたこ焼きにでもするか」
「……!!」
(こ、この声っ……!!)
聞きなれた声がちえりの頭上を掠めて。案の定、蛸と間違えたイケメンがひとり。
バランスを崩すほど強引に掴まれた腕によろけながら、ちえりはその声の主をキッと睨みつける。
「ちょっ……! 誰が蛸(たこ)よっっ!!」
「この時間に売れ残ってるならもう"おつとめ品"だな。黙って俺のカゴに入れ」
「……なっ!!」
不敵な笑みを浮かべる鳥居へ言い返そうとするちえりの肩へ腕を回した瑞貴が鳥居隼人の腕を強く掴んだ。
「鳥居、ここはオフィスじゃない。ちえりに構うのやめてくれないか」
「そ、そうよそうよっ!」
「じゃあ言わせていただきますが、先輩のものでもないのに私物扱いやめていただけます?」
「え、えーっとそれは……」
勝手に相槌を打ったかと思えば、モジモジと瑞貴の様子を覗き見るちえりに新たな声が飛び込んできた。
「あれー? ちえりっち? それに桜田っちまで! 偶然だねー!」
「長谷川さん……、三浦さん…………」
頭の上に漬物石が圧し掛かったくらいの衝撃がちえりに襲い掛かった。
よりによって一番会いたくないナンバーワン(鳥居隼人)、ツー(三浦理穂)が出そろってしまうだなんて、やはりこのまま蛸として鮮魚コーナーか、芋として青果コーナーに陳列されてしまったほうが幸せだったかもしれない。あからさまに落胆な表情を浮かべるちえりに三浦理穂が要らぬ口を開く。
「ねえ、せっかく皆集まったんだし、これから鍋パーティーでもどうかしら?」
「…………」
「え……」
無言で険しい顔をした瑞貴の気が乗らないのは明らかだったが、それよりもちえりは三浦理穂の"鍋パーティー"発言に瑞貴の買い物かごを隠したくて冷や汗が止まらない。
(鍋パーティーってどこでっ!? しかも鍋っ! なぜ鍋っ!! かごの中を見られたら鍋の気分じゃないっていう言い訳ができないっ!!)
「鳥居っちの部屋なんてどう? 引っ越してきたばっかだし綺麗なんじゃー……」
「大迷惑です」
間髪入れずに長谷川の言葉を遮った鳥居がスタスタと歩き出す。
「……」
(確かに……。あいつんちにはチェリーもいるし、あまり大人数でお邪魔するのは迷惑だよね……って、なんで私までお邪魔するつもりでいるんだろ……)
ズキッと痛んだ胸に俯(うつむ)くちえりの傍でさらに長谷川がヘビー級の第二段を繰り出した。
「じゃあ桜田っちの部屋はー!?」
「断る。俺は誰も部屋にあげるつもりはない」
即答した瑞貴にほっと胸を撫でおろすも、長谷川の視線はちえりに流れて。
「じゃあちえりっちの――」
「えっ!?」



