「……そうなんだ。私、昼休み外出してたから……」

「瑞貴先輩お前のこと探してたぜ。連絡来てるだろ?」

「そ、そうだった! スマホスマホ……」

 ちえりはクリーニング済みのスーツを入れたトートバッグを腕に掛け、ぎこちなくポケットのなかのスマホを取り出し操作する。

「寄こせよそれ」

(ほんと不器用なやつ……)

「あ、ご……ごめ」

 すでに腕に絡まりかけているバッグから手を抜き鳥居に預けると、よほど気になったのか彼がそれを目の前に掲げて首を傾げているのが見えた。

「……なんだこれ?」

 鳥居が受け取ったトートバッグは大きさの割に随分軽く、左右に揺すってみるとカシャカシャとビニールが擦れる音が聞こえた。

「お昼に取りに行ったクリーニング済みのスーツなの。だから今日社食行ってなくて……」

「なんでわざわざ……社宅のサービスにあっただろ?」

「う、うん……早とちりっていうかなんというか……ははっ」

「まぁそんなとこだろうと思ってたけどな。で? メールか電話は?」

「……うん、ってあれ……?」

 画面を表示させようと電源ボタンを軽く押してみるも画面は闇に包まれたままだった。

「おかしいな……」

 今度は電源ボタンを長押ししてみるが、光の欠片さえ表示されず沈黙を貫くスマホ。

(……もしかして故障!?)

 しかし昼まで元気に動いていたスマホに故障の予兆はみられなかった。
 嫌な予感に今朝からの記憶を辿ると、結果はすぐそこに待ち構えていた。

”あ……充電するの忘れてたっ……!
でも、そんなに使うことないし……今日一日くらい平気だよね?”

 そして休憩中のゲーム。

「まさか……っ! ……充電切れ!?」

(なんでこんな肝心なときに私ってば……っ!)

 相手の声や想いを届けてくれるとても素晴らしいスマホだが、電源が入らなければ意味がない。そしてそれを管理している自分が悪いのは百も承知なため、肝心なところでいつもだらしない自分に腹が立つ。

「どうせカードキーないんだろ?」

「うん……」

(……絶対センパイ何度も連絡くれてる……)

 鳥居の声を遠くに聞きながら瑞貴への気持ちが切なく胸を締め付けた。

「シケた顔すんな。黙ってた俺にも責任はあるからな。寝床は確保してやる」

「……う、ん? ね、寝床って……?」