青いチェリーは熟れることを知らない①

(休憩中にセンパイが私を探してたって……どんな用件だべ)

 ちえりが不在の食堂であった出来事を佐藤から聞き、スマホを手に取るも瑞貴からの連絡はない。大した用事ではなかったのかも? と、考え始めていると、どことなくオフィス内がざわつき、顔を上げたちえり。このとき時計の針は午後十六時を指している。

「あ! 桜田さん戻ってきましたよ!」

「本当?」

 輝く佐藤の視線を追うと、三浦や他リーダーらしき人物と険しい顔で話している瑞貴が立っている。

「……問題は解決していないようですねぇ……」

「そうだね……」

(瑞貴センパイ疲れた顔してる……元気出るご飯作ってあげよう)

 ちえりは仕事面で彼を支えることができないため、そういった事で支えることに徹しようと考えていた。

 ――そして終業時刻前。

「あとはこれコピーして、提出っと……」

 複雑ではない操作ならほぼ間違えることはなくなったちえり。
 原本をセットし、スタートボタンを押そうとすると……難しそうな資料でその視界を覆われてしまった。

「……な、なんだべっ!?」

 思わず飛び出してしまった方言。

(ヤバ……ッ!!)

 ハッと口元を抑え、作り笑顔を向けながら背後を振り返る。

「す、すみませんすぐ終わりますのでっ……」

「なんだいまの。ちゃんと日本語しゃべれ」

 ニヤリと笑った威圧的なウフル系イケメンがこちらを見下しながらシッシッと、"そこどけ"の素振りを見せる。

「……~~~っ!!」

 カッと頬に集まる熱を感じながら、方言を聞かれた恥ずかしさに反撃できない。

「……あ? 今度は言葉も忘れたのか?」

「……っ忘れてないっ!!」

 毛を逆立てながら鳥頭に噛みつきそうな勢いで睨むが、怒りはさらに込み上げ、一歩にじり寄るとそこへやってきたのは――

「ほら、そろそろ時間だぞ。何やってるお前たち」

 優しい声の中にも少し棘を含んだ言葉が仲裁に入った。

(……!? 瑞貴センパイッッ!!)

「な、なんでもありませんっっ!」

「なんでもないっす」

 炎上した頬のまま力強くボタンを押したちえりと、そっぽを向いた無表情の鳥頭。
 対照的なふたりを見比べながら瑞貴は怪訝な表情を浮かべる。

「……ちえり、あとでちょっと話あるから席で待ってて」

「は、はいっ!」

 苦手な男から逃げるように足早に去り、その小さな背を見送った瑞貴が鳥居に向き直る。

「……あんまりからかってくれるな。鳥居」

「からかったわけじゃないですよ。そこにたまたま面白いやつがいたんで構ってやっただけです」