青いチェリーは熟れることを知らない①

 瑞貴までとは言わないが、それなりにとろみの残ったちえりの力作が完成した。
 裏返して皿にあけ、別のフライパンで焼いていたカリカリのベーコンとミニトマトや野菜を盛り付ける。

「お待たせしましたっ!」

「サンキュー」

 いつものようにベッドの脇へ運びながら彼の顔を覗き見る。

(喜んでくれるかな?)

「チーズオムレツ……? 俺、これ大好物なんだぜ!」

 明らかにテンションの上がった瑞貴が嬉しそうに顔を上げた。とたんに顔の距離が近くなってしまい、慌てて姿勢を正したちえり。

「は、はいっ!  瑞貴センパイのチーズオムレツには遠く及ばないけど頑張ってみました! "オムレツは箸に限る! "って前に言ってたからちゃんとお箸もっ!」

「……っ」

 その言葉に目を見張った彼だが、やがて瞳は細められ、口角を上げながら小声で呟く。

「覚えててくれてたのか……」

「もちろん! 箸でなんて食べにくくないんだべか……って思いながら美味しく頂きましたよ!」

「ははっ! いまでもその名言は有効だぜ。チェリーの分もできてんだろ? 一緒に食おうぜ!」

「はい! ……あ、レトルトですけどコーンスープもあるので持ってきますねっ」

(やった! 喜んでもらえたっ!! センパイの笑顔久しぶりにみた……っ!!!)

 このまま距離が離れてしまわぬよう、食事を運びながら思い切って瑞貴のベッド近くのソファへ腰掛ける。

「マジ美味い」

 箸でも綺麗に食べる瑞貴は夢中で口に運び続けた。
 ちえりは小さく微笑みながら抱いていた不安を口にする。

「本当はこのスープ(ケノール)が一番おいしいって言われたらどうしようかと思って……」

「俺はチェリーが作ってくれるなら何でも美味いよ?」

「え……?」

(い、いまなんて……っ!?)

 ボイスレコーダーがあったら確実に起動していたであろう貴重な発言を脳内で繰り返してはニヤける。

「例えばチェリーに毒盛られても、俺は美味いと思うって言ったんだ」

「……っ!?」

(ど、毒って……殺傷能力のあるほどマズイ料理って意味だべかっ!?
それとも……本気のポイズン……っ!!??)