やがて昼休憩となり、合流した瑞貴を伴っていつものように四人で定食を口にしていると――。

「ねぇ桜田くん。今週の金曜日、同期メンバーで食事しようかって話出てるんだけど……どう?」

「……ん?」

 突然話しかけられ、ちえりの話に笑みを浮かべていた瑞貴の顔が斜め前方へ向けられた。

「……っ!」

(三浦さんだっ……!)

 彼女が登場しただけで思わず身構えてしまったちえり。
 そして予想通り三浦の瞳がこちらに降りてくることなく話は続けられる。

「最近皆の誘い断ってるでしょ? 桜田くん。付き合い悪くなったって言われてるわよ?」

「悪い、そのうち埋め合わせするから。今回もパスさせて欲しい」

「……」

(……瑞貴センパイがお誘いを断ってるのって……もしかして私のせい?)

 職場だけではなく、プライベートでも彼の行動を制限させてしまっている申し訳なさから瑞貴の顔をうかがったちえりに、彼のものではない鋭い視線が刺さる。

「…………」

「……っ」

(……ふごぉっっ!!)

 殺気にも似たそれは紛れもなく三浦のものであり、その瞳には汚物を排除しようとする塩素系クリーナーのように容赦がない。瑞貴の断りの言葉に肩を震わせながら、#汚物__ちえり__#を睨んでいる三浦は怒りと悲しみが共存している様子だった。
 おそらく瑞貴は他の者の誘いを断ったとしても、自分の誘いならば断わらない自信があったに違いない。

「……瑞貴センパイ、せっかくのお誘いですし……」

 恐ろしさのあまり、#汚物__ちえり__#が控えめに瑞貴の背中を押すが……

「いや、寄り道しないで帰りたいんだ。俺」

「あ、えっと……」

(そ、それはそれで……が、がーん!!!)

切なく微笑まれ、胸が苦しくなる。

(これじゃあ私が瑞貴センパイば追い出そうとしてるみたいでねぇのっ!?)

「……なんか、ごめんなさいっ……」

 事態を悪化させてしまっただけの自分に嫌気がさす。
 さらに瑞貴を傷つけてしまったちえりは身の置き場所がわからなくなってしまい、その背中はどんどん丸く小さくなっていく。

「ん~? 桜田っちやっぱ行きたくないの? 赴任明けで帰ってくる戸田っちが会いたがってたよ?」

 ここで助け舟とばかりに、ひょっこり顔を出した長谷川が片手に珈琲を手にしたまま姿を現した。

「ははっ知ってる。戸田とはまた別で会おうと思ってる」

「さっきの話聞いてたけど、もしかして桜田っちって彼女と同棲してんの? 寄り道したくないってそれしか……」

「……じゃあ若葉さんも一緒なら?」

 不吉な長谷川の言葉を遮って口を開いた三浦。
 どことなく怒気を含んでいるような口調に長谷川が"?"と首を傾げている。

「若葉さんが一緒なら桜田くんも参加してくれるのかしら?」

「……え、わっ……わたしですか?」