頬を染めてはにかむように言われ、ちえりが考えていたこととはまったく別の発言だったため理解に時間がかかってしまった。
今度はちえりが呆然と瑞貴の顔を見つめてしまい、自分の言葉が気に入らないのだろうと勘違いしたらしい瑞貴の瞳が悲しそうに逸らされてしまう。
「……なんてな、ごめん。変なこと言った」
「い、いえ……っ!? 全然変なんかじゃっ……」
慌てて否定するも、それ以上の発言……いや、自身の発言さえなかったように話を打ち切られてしまう。
「さぁ飯にするか! チェリーの作ってくれたカレー、もうなくなりそうなんだぜ!」
明るく振舞う瑞貴だが、どことなく無理をしているような気がしてならない。
「え!? もう!?」
「俺、昨日結構食ったからな! ……あ、……」
ふと考える様な素振りを見せた瑞貴にちえりが首を傾げて尋ねる。
「どうかしました?」
「ん、帰りに茶碗とかお椀、ほかにも色々揃えような」
「……は、はいっ!!」
願ってもない同棲らしい第一歩! をまさか瑞貴の口から聞けるとは思ってもみなかった。
ちえりとしては余っている食器を使わせてもらえるだけで十分過ぎるほどだったが、自分の分として、それらをここに置いてもらえる幸せはやはり大きい。
緩みっぱなしの顔をなんとか笑顔でごまかしながら、テーブルにふたり分の食事を並べていると――……
「俺、ベッドでもいい?」
と、再びズキリとくる言葉が放たれた。
「あ……」
(……そうだった……)
今朝はもうこっちで一緒に食べてくれるかな? と、どこかで期待していたが彼の日課ならしょうがない。
「う、うんっ! ベッドの脇さ置きますね」
まさかの家庭内別居のような食事は今日も続いてしまった。
気落ちしてしまう心をなんとか立て直し、テレビを付けながら離れた場所での食事をはじめる。
「いただきます」
「いただきます……」
「…………」
(……せっかく作ってもらったお味噌汁味わって食べなきゃ……オムレツ凄い、ふわとろだ……)
まず箸をとり、お椀を傾けながら温かい液体を流し込む。
すると出汁の効いた風味豊かな香りが喉元を過ぎ、冷えてしまいそうな心めがけてゆっくり落ちてくる。
「…………」
とても美味しいのに褒め言葉のひとつを口にするのも躊躇ってしまう。
(……昨日、瑞貴センパイが話してくれるまで待つって決めたばっかりなのに……)
一歩近づいたと思った距離が食事の度に突き放されているような気がして、これからもビクビクしまいそうだ。
(……空気変えなきゃ……なんか話題ないかな……寝顔素敵ですね! なんて盗み見てたのバレバレだし……)
「あ、そうだチェリー」
「は、はいっ! わわっ!!」
突然の瑞貴の声に背筋をピーンと伸ばしたちえり。思わず握りしめた箸とお椀を取り落としそうになってしまった。
「ん? なにした?」
彼女の慌てっぷりに瑞貴が首を傾げている。
「ううんっ!? な、なんでもっっ」
「んだ? ってごめんな、お前の毛布取って……」
『……毛布あったか……チェリーの体温だな、これ……』
「……いいえっ!?」
今朝の出来事を思い出したちえり。顔に集まった熱で思わず鼻血が出てしまわないかと鼻を押さえる。
気恥ずかしい反面、いまとなっては"もっとやってくれていいですよっっ!!"と鼻息荒く迫ってしまいたい衝動にかられた。
「そうそうっ! センパイ昨日ベッドで眠ってたのにいつソファさ来たんだろうって思ってですねっっ!?」
「あ~……うん。なんだ……」
急に視線を泳がせ、言葉を濁した瑞貴にちえりもまた首を傾げた。
「……?」
「……うん、チェリーだけソファで寝せるのも悪いかと思って、さ……で、寝顔見てたら…………」
「……ギクッ!! 寝顔っ!? 私のっ!? センパイのですかっっ!?
ってそんなのいいんですよっ! 私居候させてもらってる分際だし、ソファ立派だし! 好きだし!?」
「ん? なに動揺してんだ? それにソファ好きって……なんだそれ!」
ははっと笑った彼がとても眩しい。
瑞貴がモデルでもなくアイドルでもないというのが信じられないくらい美しい。すでに後光が差しているレベルの彼は拝みたくなるほどに神々しかった。
「チェリーが俺のベッドに寝るか、チェリーのベッドも買うかどっちかだな」
「…………っ!?」
「そ、そんなことまでしてもらうわけにはっっ!!」
「んでもこのままじゃダメだから、ぼちぼち考えておいてな? あ、それともふたりでソファで寝る?」
「……ぷっ」
ベッドがあるにも関わらず、ふたりでソファへ横になっているのを想像して噴出してしまった。なぜそこまで瑞貴は頑ななのかと思ったが、それが彼の優しさなのかもしれない。
「あ、笑ったな?」
「だって、瑞貴センパイ面白くてっ……」
「ははっ! だって俺、チェリーといるとすげぇ楽しいから!」
「……っ!?」
「……真琴がずっと羨ましくてさ、なんで俺は年上なんだべって……」
(……真琴が羨ましいって……、そっか……友達としてか……)
たまにこの天然王子が憎い。
何度肩透かしをくらったことかっっ!!
(だ、だけど……好きっ!!)
これが惚れたよしみというのかもしれない。
この小さな空間で(部屋は大きいけれど)いつまでも語らっていたいという気持ちがムクムクと芽生える。
そして、その瑞貴の優しさは自分にだけ向けられていると信じたくてしょうがないちえりだった――。
今度はちえりが呆然と瑞貴の顔を見つめてしまい、自分の言葉が気に入らないのだろうと勘違いしたらしい瑞貴の瞳が悲しそうに逸らされてしまう。
「……なんてな、ごめん。変なこと言った」
「い、いえ……っ!? 全然変なんかじゃっ……」
慌てて否定するも、それ以上の発言……いや、自身の発言さえなかったように話を打ち切られてしまう。
「さぁ飯にするか! チェリーの作ってくれたカレー、もうなくなりそうなんだぜ!」
明るく振舞う瑞貴だが、どことなく無理をしているような気がしてならない。
「え!? もう!?」
「俺、昨日結構食ったからな! ……あ、……」
ふと考える様な素振りを見せた瑞貴にちえりが首を傾げて尋ねる。
「どうかしました?」
「ん、帰りに茶碗とかお椀、ほかにも色々揃えような」
「……は、はいっ!!」
願ってもない同棲らしい第一歩! をまさか瑞貴の口から聞けるとは思ってもみなかった。
ちえりとしては余っている食器を使わせてもらえるだけで十分過ぎるほどだったが、自分の分として、それらをここに置いてもらえる幸せはやはり大きい。
緩みっぱなしの顔をなんとか笑顔でごまかしながら、テーブルにふたり分の食事を並べていると――……
「俺、ベッドでもいい?」
と、再びズキリとくる言葉が放たれた。
「あ……」
(……そうだった……)
今朝はもうこっちで一緒に食べてくれるかな? と、どこかで期待していたが彼の日課ならしょうがない。
「う、うんっ! ベッドの脇さ置きますね」
まさかの家庭内別居のような食事は今日も続いてしまった。
気落ちしてしまう心をなんとか立て直し、テレビを付けながら離れた場所での食事をはじめる。
「いただきます」
「いただきます……」
「…………」
(……せっかく作ってもらったお味噌汁味わって食べなきゃ……オムレツ凄い、ふわとろだ……)
まず箸をとり、お椀を傾けながら温かい液体を流し込む。
すると出汁の効いた風味豊かな香りが喉元を過ぎ、冷えてしまいそうな心めがけてゆっくり落ちてくる。
「…………」
とても美味しいのに褒め言葉のひとつを口にするのも躊躇ってしまう。
(……昨日、瑞貴センパイが話してくれるまで待つって決めたばっかりなのに……)
一歩近づいたと思った距離が食事の度に突き放されているような気がして、これからもビクビクしまいそうだ。
(……空気変えなきゃ……なんか話題ないかな……寝顔素敵ですね! なんて盗み見てたのバレバレだし……)
「あ、そうだチェリー」
「は、はいっ! わわっ!!」
突然の瑞貴の声に背筋をピーンと伸ばしたちえり。思わず握りしめた箸とお椀を取り落としそうになってしまった。
「ん? なにした?」
彼女の慌てっぷりに瑞貴が首を傾げている。
「ううんっ!? な、なんでもっっ」
「んだ? ってごめんな、お前の毛布取って……」
『……毛布あったか……チェリーの体温だな、これ……』
「……いいえっ!?」
今朝の出来事を思い出したちえり。顔に集まった熱で思わず鼻血が出てしまわないかと鼻を押さえる。
気恥ずかしい反面、いまとなっては"もっとやってくれていいですよっっ!!"と鼻息荒く迫ってしまいたい衝動にかられた。
「そうそうっ! センパイ昨日ベッドで眠ってたのにいつソファさ来たんだろうって思ってですねっっ!?」
「あ~……うん。なんだ……」
急に視線を泳がせ、言葉を濁した瑞貴にちえりもまた首を傾げた。
「……?」
「……うん、チェリーだけソファで寝せるのも悪いかと思って、さ……で、寝顔見てたら…………」
「……ギクッ!! 寝顔っ!? 私のっ!? センパイのですかっっ!?
ってそんなのいいんですよっ! 私居候させてもらってる分際だし、ソファ立派だし! 好きだし!?」
「ん? なに動揺してんだ? それにソファ好きって……なんだそれ!」
ははっと笑った彼がとても眩しい。
瑞貴がモデルでもなくアイドルでもないというのが信じられないくらい美しい。すでに後光が差しているレベルの彼は拝みたくなるほどに神々しかった。
「チェリーが俺のベッドに寝るか、チェリーのベッドも買うかどっちかだな」
「…………っ!?」
「そ、そんなことまでしてもらうわけにはっっ!!」
「んでもこのままじゃダメだから、ぼちぼち考えておいてな? あ、それともふたりでソファで寝る?」
「……ぷっ」
ベッドがあるにも関わらず、ふたりでソファへ横になっているのを想像して噴出してしまった。なぜそこまで瑞貴は頑ななのかと思ったが、それが彼の優しさなのかもしれない。
「あ、笑ったな?」
「だって、瑞貴センパイ面白くてっ……」
「ははっ! だって俺、チェリーといるとすげぇ楽しいから!」
「……っ!?」
「……真琴がずっと羨ましくてさ、なんで俺は年上なんだべって……」
(……真琴が羨ましいって……、そっか……友達としてか……)
たまにこの天然王子が憎い。
何度肩透かしをくらったことかっっ!!
(だ、だけど……好きっ!!)
これが惚れたよしみというのかもしれない。
この小さな空間で(部屋は大きいけれど)いつまでも語らっていたいという気持ちがムクムクと芽生える。
そして、その瑞貴の優しさは自分にだけ向けられていると信じたくてしょうがないちえりだった――。