つい顔がニヤけてしまう。

 ちえりは自分の眠っていたソファに座り直し、そわそわと瑞貴の顔を盗み見る。

(ちょ、ちょっとだけ写メ撮ってもいいべか……
で、でも……"りべんじぽるの"っていう言葉があるくらいだし……)

 と、天使のちえりと悪魔のちえりが葛藤を繰り広げはじめた。

天使のちえり『ダメだちえり!! もし撮るにしても瑞貴センパイに許可をとってからだべ!?』
悪魔のちえり『仕事の息抜きに見る程度なら平気だって!! 顔だって半分しか見えないんだし!!』

(い、息抜き……仕事の息抜き……ゴクリ……ッ……)

 それは何度思ったことだろう。失敗した時、イライラした時、落ち込んだ時……
 瑞貴に会えたら立ち直れるかも……と、妄想の彼でいつも我慢していた。

 やがて、悪魔に魂を売ったちえりはカメラ機能を立ち上げるとパシャリ。

ピロリン♪

「はぁうっっ!!」

 無駄に音が高いシャッター音に思わずおかしな声を上げてしまった。
 そしてすぐ、ハッと口を押さえ、瑞貴の顔を覗き込む。

(……ね、眠ってるよねっっ!?)

 スースー……

一定のリズムで繰り広げられる呼吸音にホッと胸を撫で下ろす。

(……ね、念のため確認っ!!)

 目にもとまらぬ速さで"アルバム機能"を開いたちえり。そのほとんどが親友の真琴と、ペットのタマの画像だが……

(あった! ちゃんと撮れてるっっ!!)

 そこには薔薇柄の毛布に包まれ目を閉じている瑞貴がいる。毛布のせいで整った鼻筋あたりまでしか映ってはいないが、無防備な彼を収めることが出来たのだから大満足のちえりだった。

 そしてスマホの機能を疑うわけではないが、撮りなおせるとしたら今しかないため確認は怠れない。

「……あ~これで何でも頑張れそう……っ!」

 年甲斐もなくスマホを胸に抱き飛び跳ねてしまいたい衝動にかられるが、なんとか地に足をつけた。
 改めてソファへ座り直し、スマホの瑞貴と本物の瑞貴を見比べながら頷く。

(瑞貴センパイには"写真映り悪い"なんて言葉存在しないんだべな~!! はぁ~!! かっこいい!!)

 ポスッと枕に頭を載せ、しばらく幸せな余韻に浸りながらゴロゴロ転がり目を閉じる。

(もう玉の輿とかどうでもいいは~っ!!
ずっとこうやって瑞貴センパイと一緒にいられるなら……わたし…………)


スースー……


そして結局、悶絶しながらスマホを抱えたちえりはこのまま二度寝してしまうのだった。