きみの知らないラブソング

リビングに来ると、そこはすでに良い匂いに包まれていた。

ジューシーなお肉に特製のソースがかかった我が家ならではの嗅ぎ慣れた香ばしい匂い。
今日のご飯は、茉衣の大好きなハンバーグだ。

テンションが上がる。


「早く食べて早くお風呂入ってね」

呆れたような口調の母親。もしかすると、今さっきまで寝ていたことに気付かれているのかもしれない。だが、どんな言い方をされても今の茉衣は何一つ気にならない。
今、茉衣の心のベクトルは優太に向いている。

「はーい」

大好きなハンバーグを頬張りながら空返事をする。
お風呂なんかより気になる相手とのLINEのほうがよっぽど大事だ。そんなことを思って、心の中で慌てて取り消した。
一瞬でも乙女みたいなことを考えた自分がちょっと、恥ずかしかったから。



「ごちそうさま」

急いで夕食を食べ終えた茉衣はそそくさとリビングを後にする。胃袋は膨らんで重いはずなのに、その足取りは妙に軽やかだった。