きみの知らないラブソング

小さなため息は部屋の静寂に溶け込んだ。





どれくらい時間が経ったのか。

・・・ピロン
茉衣はその音で目を覚ました。LINEの通知音だ。
随分と長い間眠っていたらしい。
開けっ放しのカーテンには夜だけが映っている。

茉衣は徐に体を起こしスマートフォンを手に取る。
画面には優太の名が映っていた。

《こちらこそよろしく》

ありきたりな、たった一言だった。

茉衣はあんなに悩んだのに。優太はきっと数秒でこの言葉を打って、送信ボタンを押したのだろう。
そう考えたら馬鹿らしくて。

可笑しかった。

優太はきっと、何も考えてなんかいない。
悩む必要なんてないんだ。
素直になろう。話したいことを話してみればいい。


そのとき、扉の向こうから母親の声がした。
夕食の時間だ。
茉衣はスマートフォンを置き、慌ててリビングに足を運ぶ。
歩きながら思った。

まるでこんなの、恋でもしているみたいだ。





返信の内容に悩みながらこんなにも胸をわくわくさせているなんて。