きみの知らないラブソング

彼は、こっちまで来ると茉衣の斜め前の席に座った。


「名前、なんて言うの?」

お弁当を食べ始めた広菜が声をかける。
こういうときに、躊躇わずに誰にでも話しかけることができる広菜がすごく羨ましいと思う。
茉衣には不可能なことだ。



彼の名前は、小宮山優太。

話していくうちに少しずつ優太のことが分かっていった。茉衣の思った通り、優太は人見知りらしい。さっき口数が多くなかったのもそのせいだったのだろう。
だが会話を重ね、昼休みも半ばに差し掛かった頃には、優太もすっかりみんなと打ち解けたようだった。楽しそうに無邪気に笑っている。綺麗な顔を綻ばせて。





茉衣は、嬉しかった。



これから関わることはない。
そんなことを思った自分が馬鹿だ。

関わるに決まっている。
というより・・・関わりたいと思っている自分がいる。
優太のことをもっと知りたい。





何となく気になっていただけの存在は、一瞬にして茉衣の中で大きくなった。