「こんなこと言って悩ませたらごめん」
優太は笑った。
笑った顔ははっきりと見えたのに。
そこには心が見えなかった。
「・・・ううん」
こんなにも優太を遠く感じたのは初めてだった。
だが、優太の言葉を聞いた茉衣は一つ決心した。
「優太、ありがとう」
ただただ素直に嬉しいと思った。
背中を押してもらった。
優太は照れくさそうにはにかむ。
少し前から感じていたが、優太は恥ずかしくなると右手で髪を触る癖があるみたいだ。
そんな姿さえ、今、愛しいと感じた。
優太の言葉が届いたから。
優太の思いが伝わったから。
だから茉衣は。
過去を受け止めて、前を向くことができそうだ。
「怒られたくないし教室戻るか!」
優太が言う。さっきまでの優太とは違う。
彼はいつもの、優太だ。
茉衣もすっかりいつも通り笑顔を返した。
いつのまにか雨は止んでいた。
空には薄く虹がかかっている。
茉衣は胸のつかえが取れ、清々しい気持ちを感じていた。また、その奥にある温かい気持ちをついに確信したのだ。
優太が、好きだ。
