きみの知らないラブソング


茉衣の心を掻き乱すように雨が一層激しくなる。


あの日の記憶が鮮明に蘇る。
茉衣は唇を噛んだ。
傘を持つ手の力を強める。
怖くて、悔しくて。さっきまで暑さを感じていたはずなのに全身に少しの悪寒が走った。


「歌いたいのに・・・怖いんだ。

あの頃みたいに、独りになったら。
また、苦しい思いをしたらって考えたら。




・・・怖くて仕方ないんだ」



無理に笑顔を作って言った。
そうでなきゃ涙が溢れそうだった。

気がつくと学校に着くところまで来ていた。
しかし、優太が何気なく歩く方向を変えたのに従って茉衣も学校に背を向けて歩いた。

向かったのは学校の裏にある広場だった。


二人掛けの小さなベンチがある。
ここなら屋根もあって雨には濡れない。
この天気なら人も来ないだろう。


「ここ、座ろう」

優太なりの優しさだった。茉衣は黙って頷く。
二人は少し距離を保って座った。





「ごめん、変なこと聞いて」

少しの沈黙のあとそれを破ったのは優太だった。
いつにもなく弱々しい顔をしていた。

「私こそ、ごめん。変なこと言って」



「・・・俺は」

それだけ言うと優太は口を噤んだ。
視線を向ける。目が合った。

優太は、目を細めて切なそうな顔をしていた。