「茉衣ってさ」
優太と目を合わせて。優太と話して。優太と笑い合って。こんなにも距離は近いのに。
「なーに?」
それはあくまでも友人として。
優太にとって、そこに特別な感情はない。
それが切なくて、痛い。
「部活やらないの?」
「・・・え?」
腹を割った話だって優太とならできるのに。
それでも。
優太とは一定の距離がある気がしている。
それ以上は踏み込めないような。
間を遮る何かがあるような。
そんな感覚を時々抱く。
距離を縮めれば縮めるほど、優太が遠くなる。
そんな感覚を、抱くのだった。
「本当は私・・・歌いたいんだ」
だけど今、優太はすぐ隣にいる。
そう思ったら胸の奥にしまっている過去を吐き出したくなった。優太なら聞いてくれるような気がしたのだ。
怖かった。
今まで、誰にも話せなかったことを話すのが。
「音楽、好きなんだ?」
「中学のとき、合唱やってたんだ」
もう一歩踏み込んだら。
優太との関係が変わってしまうかもしれない。
それでも茉衣は今、過去を捨てたくなった。
