きみの知らないラブソング


たまに吹くそよ風が雨と共に爽やかな香りを運んでくる。風向きのせいで優太の香りはどうしても茉衣の鼻をかすめる。
恥ずかしくて茉衣は口を閉ざしていた。

優太が小さく口を動かす。

「ごめん、入れてもらって」

無意識に声のほうを見ると優太と視線がぶつかった。分かっているつもりでも近すぎる距離に驚く。茉衣の手の力がふわりと抜けた。思わず傘を落としそうになった。

「いや!全然!気にしないで!」

馬鹿みたいだ。こんなにも意識している。
気にしないようにとすればするほど、優太がもっと男の子に見えてくるから不思議だ。

雨音が加速するのに比例するように、鼓動がどんどん速くなっていく。


茉衣は平静を装うのに必死だった。


「私こそごめん。荷物持たせちゃって」

「これくらい良いって」


それなのに優太は、いつも通りの顔で茉衣を見る。そしていつも通り笑った。
特別な感情なんて何一つ抱いていないように。

そのほうが良いような気もする。



だけどやっぱり、ほんの少し。

切ない気もする。