きみの知らないラブソング



少し休んだ二人は帰路につくことにした。

外に出ると雨脚は強まっていた。
空は一面どんよりとした雲に覆われている。
雨が止むことは当分なさそうだ。

「茉衣、傘持ってる?」


「一本だけならあるけど・・・」

リュックの中から桃色の折りたたみ傘を取り出す。
女性用の小さな傘だ。
それを目の前で開いてみせる。


「これじゃちょっと小さいね」

茉衣はえへへ、と苦笑いを浮かべたが、優太はいたって真面目な顔をして、言った。

「いや、その傘差してくれる?」

「え、うん。わかった」

よく分からないまま言われた通りにする。
茉衣は傘を普段よりも高い位置に差し、少し背の高い優太を見上げた。優太は両手に荷物を提げ茉衣に一歩近付いてきた。
ほんの一瞬、肩が触れる。
そして優太は何も言わずに同じ傘の下に入ってきた。
驚いた。


傘に当たる雨が不規則なリズムで鳴っていた。

まるで茉衣の心のように。


優太が至近距離にいる。
同じ傘の下。
顔を向かい合わせれば吐息がかかるほどに。