きみの知らないラブソング



春は出会いを運んでくる。





・・・その通りかもしれない。

四月。茉衣は高校生活二日目にして、出会った。不思議で魅力溢れる人に。
あの日から、茉衣の瞳に映る世界は少しずつ色を変えたのかもしれない。





あれから高校生活はそれなりに過ぎていた。



雨の香りを胸いっぱいに吸い込む。

今までだったら憂鬱だった。嫌いだった。梅雨が。
だけど今はそれさえも愛おしい。
穏やかな雨が二人の足跡を追いかけていた。


茉衣は、今優太と二人で歩いている。


文化祭という一大イベントが二週間後に迫っていた。
クラスの出し物としてカフェを選んだ一年一組は、初めての文化祭に胸を踊らせ、休み時間や放課後の限られた時間を使って慣れない準備にコツコツと励んでいるのだ。



「なんで買い出し私たちだけなのかな〜」


茉衣は沈黙を破るように文句をこぼした。
二人は地元のホームセンターに向かっている。準備に使用しているペンキや何やらが不足したらしい。

車もほとんど走らない田舎道。聞こえるのは蛙の鳴き声だけ。さっきまでの雨はちょうど上がっていた。
二人きりで歩くには妙な静けさだった。


「仕方ねぇよ、それぞれ準備があるんだから」


優太が気怠そうに言葉を発する。

確かに優太の言う通りだ。
一組はクラス内で仕事の分担をしている。買い出しの係になった二人が買い出しに行くのは当然のことだろう。