ふうこさんと見えない夏目くん

もちろん私には見えないけれど、プールには夏目くんがもう来ていたようだ。


「夏目ー、来たぞ」


佐々木くんがプールのフェンス辺りに声をかけた。
目線の先に、きっと夏目くんが居るのだろうと、私も同じ方向を見つめる。

佐々木くんは持っていた買い物袋をごそごそして、そこにいる夏目くんに見せるように大きく口を広げた。


「あと、アレ取ってくるから。逢沢さんここにいて」

「えっ、どこいくの佐々木くん」

「すぐ戻るって」


夏目くんと話していたと思っていた彼が、おもむろに立ち上がり、プールから出て行こうとする。


「待って、私も行く!」


1人でぼんやり明るいとはいえ、暗闇に置いていかれるのが嫌だった。

だけど佐々木くんは、


「夏目、逢沢さんの隣から動くなよ!」


そう言って小走りで出ていってしまった。

不思議と、夏目くんが隣にいると思えば、恐怖心は少し消えた。


「……夏目くん、ありがとう」


見えないし、彼の声も聞くことは出来ないけれど。
私の声は彼に聞こえているだろうから、そう呟いた。