人魚姫の涙


「そういえば、さっきどうして日本に帰ってきたの。って成也聞いたじゃない?」


互いに寄り添って夜の海を眺めていた時、不意に紗羅がそう言った。

視線を隣に向けるが、紗羅は真っ直ぐに前を向いて海を見つめていた。


「実はね、帰ってきた理由は、もう1つあるの」

「もう1つ?」


意味深なその言葉に首を傾げる。

すると、ゆっくりと視線だけ俺に向けた紗羅。

真剣なその表情に、胸の奥が僅かに不具合を感じる。


「どうしても、確かめたい事があってね。それを確かめにきたの」

「何を?」

「だめ~。まだ秘密~!」


しかし次の瞬間、いつのも様子に戻って紗羅は可笑しそうに笑った。

コロッと変わったその表情に戸惑いながら、種明かし寸前でお預けを食らった俺は不満そうに声を上げる。


「え~~!!」

「迎えに来てくれなかった、成也になんて教えてあげないから!!」

「ちゃんと、思い出しただろ」

「思い出すの遅すぎ~!」

「教えろよ!」

「やだ!」


俺達の笑い声が、静かな海にこだまする。

幸せの形が、紛れもなくそこにはあった。