人魚姫の涙


紗羅を抱きしめながら、遠い日の事を思い出す。

ずっと離れたくないと泣く紗羅。

小さな手に握られた、夜光貝のカケラ。

必死に約束した、あの言葉。


一気に過去が蘇る。

あの日の夕日がフラッシュバックする。


「――僕が必ず、迎えに行くよ」


波の音だけする海辺で、約束の言葉を繰り返す。

確かにこの場所で告げた、18年前の言葉を。


「成也……憶えてたの?」

「紗羅はずっと、ずっと待っててくれてたのにな」

「――」

「迎えに行くって、約束したのにな」

「――」

「バカだよな、俺。約束したのに」


あの日、必ず迎えに行くと約束した。

忘れないでねと、誓い合った。


どうして、忘れていたんだ。

どうして、埋もれてしまったんだ。


こんなにも愛しい人を。

愛しい思い出を。