人魚姫の涙


「私の宝物」


ニッコリ笑って、紗羅はそれを大事そうに握った。


「――…まだ、持っていてくれたんだ」

「当たり前じゃない。成也から初めて貰った宝物だよ」


いじらしい紗羅のその言葉に、胸が締め付けられる。

それまで覚えてもいなかった俺とは違い、紗羅は18年間もの間、俺の事を忘れないでいてくれた。

それが嬉しくて堪らない。


「だから、会いたくって、会いたくって、来ちゃった」

「え?」

「成也に会いたくて、来たんだよ」


子供みたいに笑う紗羅が可愛くて、愛しくて堪らない。

真っ直ぐに向けらえる気持ちが、俺の気持ちを増幅させる。

そんな衝動に駆られて、訳も分からず紗羅を抱きしめた。


「成也?」


突然の事に不思議そうに紗羅は俺の名前を呼ぶ。

俺の腕にすっぽりとは納まる小さな紗羅。

栗色の毛が風になびく度、甘い香りに酔いそうになる。