人魚姫の涙

「――…覚えてる」


そう言えば、紗羅は嬉しそうに笑った。


「私、成也と離れたくなくて、ずっとずっと泣いてた」

「うん」

「パパにも、何度も駄々こねたの」

「うん」

「それでも、やっぱりダメで、毎日泣いてた」


もともと泣き虫だった紗羅。

イタリアに越す事が分かってからは、特に酷かった。

だけど、幼い俺達に選択権なんてあるはずもなく、紗羅は俺の前からいなくなった。


「――成也。憶えてる? コレ」


紗羅は大事そうに首にかかるモノを俺に差し出した。

手の中で微かに虹色に光る、ウロコの様な形のモノ。

確か、紗羅が宝物だと言っていた物。