人魚姫の涙


俺の質問に、紗羅はニッコリと微笑んだ。

まるで、当たり前かの様に。


「成也に会いに来たんだよ」

「え?」


思いもしなかった答えに、勢いよく視線を紗羅に向ける。

同時に手を動かしてしまって、ポトリと線香花火が落ちた。


「私は、成也に会いに来たの」

「俺に?」

「そう」

「――」

「ねぇ成也、覚えてる?」


静かに俺の名前を呼んで、紗羅も落ちてしまった線香花火をバケツの中に入れた。

ジュッと小さな音が鳴って、辺りが暗くなり月明りだけが俺達を包む。


「私がイタリアに行く前に、ここで最後に会った日の事」


告げられた言葉に、脳裏に一つの思い出が蘇る。

紗羅と再会した日に見た、あの夢を――。