「噂?」
思わず声を上げた俺に、近くにいた女の子がニッコリと笑う。
「え~成也くん知らないの~?」
「知らない」
「最近ね、夕方の海、というか堤防に出るらしいんだよ」
「人魚姫が?」
「そう。人魚姫が!」
自信満々の顔でそう言ったその子に賛同して、周りの男女もその『人魚姫』の事をワイワイと興奮気味に話し出した。
私も見た! という人物まで現れる始末だ。
いやいや、待て待て。
人魚姫って知ってんのか? お前ら。
普通に考えておかしいだろ。
言ってみれば半魚人だぞ。
そんな架空のものがいるわけないだろうが。
「先週、私の友達も見たんだって! 夕方の堤防で、海に足付けて歌ってる女の人!」
「それが人魚姫?」
「そう!」
ただ黄昏ていただけだろソレ。
どうしてそれだけで『人魚姫』になるんだ。



