人魚姫の涙

長い髪をなびかせて、紗羅は駆けだしていく。

俺は無意識に友香の手を振り払って、その後ろ姿を追った。


後ろから、俺の名前を呼ぶ友香の声がする。

でも、走る足は止まらない。


「紗羅!」


しばらくして、ようやく捉えた細い腕を引き寄せる。

すると、肩で息をする小さな体は諦めたように足を止めた。

だけど、その瞳は俺に向けられる事はない。


「紗羅...…」


同じように肩で息をする俺は、繋ぎ止めるように名前を呼ぶ。

しかし、追いかけてきたはいいけれど、何を言っていいか分からない。

そんな想いで、腕を掴んだまま立っていると。


「――彼女?」

「え...…?」

「さっきの子は、成也の彼女なの?」


そう言って、ゆっくりと視線を持ち上げた紗羅。

真っ青な瞳が悲しげに揺らいでいる。


「――…あぁ」


そんな紗羅の顔が見れずに、目を逸らしてそう言った。

胸が痛かった。