人魚姫の涙

「成也って...…え?  知り合いなの?」


困惑した声を上げた友香に、ゆっくりと視線を戻す。

すると、案の定瞳を揺らして俺と紗羅を見つめていた。

その姿に、小さく言葉を落とす。


「――幼馴染なんだ」

「幼馴染? あの美女と!?」

「あぁ」


俺の言葉を聞いて、袖を持っていた友香がギュッと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

その手を振り払う事もできず、俺は再び輪の中にいる沙羅に視線を戻す。

するとそこには、真っ青な瞳を微かに揺らして、立ち尽くす紗羅がいた。


なんて言っていいか分からず、1歩近づくと、紗羅は同じタイミングで1歩後ずさった。

まるで拒否するようなそんな行動に、何故か俺の心が悲鳴を上げる。

その間も、俺の顔をじっと見つめる紗羅の大きな瞳。

でも、いつもの様な太陽みたいな温かいオーラはない。


慌ててもう1歩近づこうとしたと同時に、弾かれたように紗羅は走り出した。

その瞬間、人混みが一気に割れた。

俺に背を向けて走り出したその背に、反射的に声を上げる。


「――紗羅!」